(8) 聖トマス・アキナスの教説
聖トマス・アキナス教説の総体は、カトリック教会が全面的に肯定しています。
結論の理解のため、僕は「スコラ学」盛期に到るまでの推移と、その後の流れの概説を試みたいと思います。
最初の教父として、即ち、キリスト教神学の父として、聖アウグスチヌスが考えられる一般論に対して、一つの付言を記したいと思う。つまり、イエスの死後、しばらく続いたヘブライズム的キリスト教を、「世界の宗教」へと展開させた聖パウロこそが最初の学者であり、彼が書き送った数多い書簡によって、キリスト教神学の基礎を築いた人物と見做すこと、………「十字架と復活」を通して、鮮明な具体化を顕現したイエスの事跡に基き、「世界宗教」への進展を成し遂げた人物であること、に対する認知に他ならない。
聖アウグスチヌスの数多い業績は、ここでは省略しよう。何よりも「新プラトン主義」の影響の下に、キリスト教とヘレニズム文化との統一を図った事実を重視したい。だが、聖アウグスチヌスはアリストテレスへの思念をも併せて持ち続けていた。彼のこうした態度は、聖アンセルムスに少なからぬ影響を与えていた。
聖アンセルムスの「Credo ut inteligam(知るために信ずる)」について言及しよう。ここには、「信仰」と「知得」という対立概念の意図的な語用が認められる。これを「主意的立場」と「主知的立場」に置き換えることは可能だろう。「主意的立場」を鮮明にした聖アンセルムスは、しかし、別のところで「知得のために信仰を怠ることの傲慢さ」を唱えつつも、「信仰のために知得を怠ることの怠慢さ」を戒めることを忘れなかった。
ピエール・アベラール(ラテン名、ペトルス・アベラルドゥス)こそが、スコラ盛期への礎を築いた人物である。その事実は、すでにスコラ学の推移の中で認められている。また、今日の現代論理学への道程を用意した人物と言っても過言ではない。………ヨーロッパ近世以降の閉塞した論理学体系が、本来命題論理学が持つ「双対性の美しさ」を消失させてしまった事実は、例えば後世のベルンハルト・ボルツァーノの指摘などによって知ることができる。
しかし、かの頑迷で有名な教会人、「主知を嫌い、主意だけにこだわった人」クレルボーのベルナールからの激しい攻撃に晒された記録が残っている。幾世紀を経た今日、アベラールの悲劇は数多い書籍で語られている。
聖トマス・アキナスは、優れた先人(聖アウグスチヌス)に倣って、プラトンへの思念も決して疎かにはしなかった。だが、P・アベラールによってほぼ完成された「論理と弁証法」を受け継いだことも一つの事実である。形としては、聖アンセルムスと反対の立場を強調することになった。つまり、主意的立場の聖アンセルムスに対して、主知的立場の聖トマス・アキナスである。
聖アンセルムスにしても、聖トマス・アキナスにしても、二つの立場のうちの一方に強く固執したわけではない。しかし、こうした色分けが齎す弊害は常に大きな事態を招いている。例えば、創立の趣旨からして「主意的立場」の強い聖フランシスコ修道会は、長年に亘って、このスコラ学、その完成者・聖トマス・アキナス、そしてアリストテレスをも批判し続けていた。
興味深い例は、20世紀、バートランド・ラッセルによる批判である。ラッセルは彼の著書「西洋哲学史」(History of Western Philosophy)の中で、次のように述べている。………「トマスが信仰から出発する限り、彼の哲学の結論はあらかじめわかっている。とすれば、そこには厳密な意味で哲学と呼ぶに値するものは何も無い」。
このラッセルに対して、当然、「ネオ・トミズム(新トマス主義)」の哲学者たちからの周到な反論はある。それについては「別質問への回答」に記述する予定でいる。
「興味深い例」と僕が記した理由は、「スコラ盛期」に与って力となった、もう一人の主知主義者・アベラールに対してラッセルが理解を示していることにある。論理実証主義者として、彼は、同じ主知主義者への親近感を抱いたのかもしれない。だが、ピエール・アベラールは、聖トマスと同様に信心深く、それを知らない人は一人もいない。エロイーズとの往復書簡に溢れる純粋さと強い信仰は、多くの史家たちに霊感を与えている。例えば新トミストのエチエンヌ・ジルソンがその一人である。
ところで、今日に到るまで、「ヴァチカン」は、聖トマス・アキナスの教説に一度の批判も加えていない。
●1879年、ローマ教皇レオ13世(在任期間 1878-1903)は回勅「Aeterni Patris(エテルニ・パトリス)」を出し、聖トマス教説を賞賛した。
●次の教皇、聖ピウス10世(在任期間1903-1914)は自ら公認した「24命題」に、聖トマス・アキナス教説の全ての公認を含ませた。
[参考]
回勅(Encyclical)とは、教皇が全世界の司教に宛てて送る文書のこと。
*スコラ学盛期以降、今日の状況については、別質問に対する回答で記述します。
- 編集日時:2012/3/20 18:15:25
- 回答日時:2012/3/19 02:45:46
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